その軍艦は死神か

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筋の通った前原の主張に、周囲も次々に賛同の声をあげる。 「そうだ……わざわざ自分達の命を危険に晒してまで助ける必要もない……」 「艦長は正気か……?」 ざわつく甲板上。私は何を言うでもなく、不安な気持ちを抑えながら静かに成り行きを見守ろうと、今一度工藤艦長へと視線を向けた━━ ━━その時だった。 「━━我々はっ!大和魂を胸に抱く武士(もののふ)であるっ!」 工藤艦長の口から発せられたその声は。何人にも勝る声量と覇気を以て、瞬間的に甲板上のざわめきを吹き飛ばした。 ピリピリと空気が震動しているように感じるほどの声に、乗組員達の背筋に力が入る。 「武士は古より、その行動規範である『武士道』に則って日々を過ごし、それは今日の我々日本軍に継承されているものであるはずだっ!」 一人一人の目を見据え、工藤艦長は続ける。 「溺死寸前の敵兵等、最早敵兵ではない!遭難者である!諸君はそれを易々と見捨てる道こそが、武士道を足しなむ者に相応しい行動であると考えているのか!?それ即ち大和魂と言うつもりか!?」 前原をはじめ、乗組員達がたじろく。 最早工藤艦長に対して尚も異論を唱えようとする姿勢は、誰からも見受けられなかった。 その様子を察してか…… 工藤艦長は、不意に口角を上げると、 「……『雷』乗組員諸君っ!」 右手を遭難している英国兵達へ向け、指を指し━━ 「━━誇り高きその威厳に懸けて、目の前で途切れようとしている命を繋いでみせろっ!」 高々と、笑みを浮かべて号令を下した。
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