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「…………」
束の間の沈黙が甲板上を支配する。
しかし、やがて……
「くくく……さすが、工藤艦長だ……」
「ああ……まったく、頭が上がらん」
乗組員達は再び勢いを盛り返した。盛り返したとは言っても、先程まで彼らを支配していた憎悪が再び溢れだしたわけではない。
『人の命を救う』……今はその考えだけが頭の中を埋めつくし、敵兵を殺そうなどという考えは、彼らが心の底から慕っている、普段から温厚で人望に厚い工藤艦長の言葉によって消し飛んでいた。
その証拠に、慌ただしく動き始めた彼らの表情からは、ただ純粋に英国兵を救おうという必死さのみが滲み出ている。
「……敵兵士を……助ける……?」
そんな中、未だに一人、憎しみの渦から抜け出せない者がいた。前原だ。
私には彼の心を動かす力は無い。静かにその様子を見守っていると、彼より一回り大きな肩幅の男が後ろから彼の肩へと勢いよく手を回した。
「おい、前原!」
「た、高野さん……こんなの納得いきません……!どうして俺達が━━」
「……なあ、前原よ」
前原の言葉を遮った高野。前原がその視線を上げると、高野の豪快な笑みがその視界に飛び込んだ。
「俺達は軍人だ。故に戦争では一切の情けを棄てる覚悟で敵兵を殺すことに集中しなくちゃならんのかもしれん。だが……」
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