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「……俺達は、化け物じゃない。『人』なんだ」
「……人……?」
呆然とする前原から離れ、高野はどこから持ってきたのか、側に立て掛けていた竹竿を担いだ。
「俺の家族はきっと、敵兵を大量に殺した話よりも、一人の命を救った話の方が、土産として喜んでくれるだろうな……前原、お前の家族はどうだ?」
「…………」
高野と俯く前原との間に、暫しの沈黙が流れる。
そのすぐ側で、突然叫び声が上がった。
「おいっ!!しっかりしろっ!!」
「馬鹿野郎っ!!手を離すなぁ!!」
救助作業を開始していた他の乗組員達の声だ。
見ると、海面へと下ろしたロープに一度は掴まった英国兵が、その安堵感に力を抜き、体力の限界が相まって海中へと沈んでいく。
しかも一人ではない。同じように怪我人や限界を越えた者達が次々に沈んだり、または同じように体力が底を尽きているために自力で上がれない者が多発している。
━━そんな……もう少しで助かるのに……!
どうにかして早急に引き揚げねばならないが、私には人を引き揚げる力は備わっていない。
このままでは、懸命の救助活動も無駄に終わってしまう。
……その時だった。
突如一人の男が甲板上から海へと飛び込んだのである。
男はそのまま海中へと姿を消したかと思うと、十数秒後に海面へと勢いよく顔を出した。
「誰か浮き輪をっ!!」
沈んだ英国兵を抱えて浮かび上がって来たのは、先程まで工藤艦長の指示に従いかねていた前原だった。
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