その軍艦は死神か

12/13
前へ
/40ページ
次へ
「諸君。よくぞ己の憎しみを断ち切り、私の身勝手な指示に従ってくれた!」 全員が静かにその声を聞き入れていく中、工藤艦長もその一人一人の目を見据えながら続ける。 「今、この場で断言しよう……」 自らが被っている帽子を取ると、工藤艦長は今日一番の満面の笑みを浮かべた。 「諸君らは、帝国海軍の……日本国民の誇りだっ!!」 「おおぉぉぉぉっ!!」 工藤艦長を筆頭に、全員が帽子を脱ぎ、『勝鬨(かちどき)』と共にそれを一斉に天高く放り投げた。 ━━ああ……そうだ…… 一つの曇りもない蒼窮の空と神々しい太陽の光を背景に、無数の帽子が空を飛ぶ光景を見つめて、私は思い出した。 ━━これだ…… いつの間にか憎悪の陰へと消え去ってしまっていたかのように感じていた私の大好きな光景は、まさにこれだった。 かけがえのない戦友と共に、一つの曇りもない空の下で、一つの曇りもない笑顔を咲かせて…… 温かさに満ちた、この上なく優しい空気に身を包まれるこの感覚が、私は大好きで堪らないのだ…… 戦友達の『優しさ』という名の強さの象徴として宙を舞う帽子達が、この時私には、世界を包みこむ程の温もりと光を放っている様に写った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加