その軍艦は死神か

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━━1942年.03月02日 駆逐艦『雷』はこの日、先の海戦で撃沈した英国海軍駆逐艦『エンカウンター』及び『ポープ』の乗組員、総勢400名余りを救助。 『雷』艦長、工藤俊作少佐(当時)は、救助作業終了後、フォールを含む英国海軍側の士官を呼び出し、彼らへ端正な敬礼を送ると、英語を使って次のように言ったという。 「貴殿方は、実に勇敢に戦われた。今や貴殿方は、我々日本海軍の栄誉あるゲストである。私は英国海軍を尊敬しているが、今回、貴国政府が日本に戦争をしかけたことは愚かなことである」 そうスピーチし、彼は英国海軍士官達を丁重にもてなした。 翌日、救助された英国兵たちは、オランダの病院船に引き渡された。 移乗する際、士官たちは駆逐艦『雷』のマストに掲揚されている旭日の軍艦旗に挙手の敬礼をし、またウィングに立つ工藤艦長に敬礼した。 それに対して工藤艦長も、丁寧に一人一人に返礼した。 同年11月、工藤俊作は異動命令を受けて『雷』を離れ、他の軍艦の艦長席に就くこととなる。 一方両軍の兵達は気ままなもので、英国兵達は駆逐艦『雷』に向かって各々手を振って体一杯に感謝の意を表し、『雷』乗組員達も帽子を振り回しそれに応えたという。 これが……『雷』が最期の時を迎える、二年前の出来事だった。
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