スラバヤ沖海戦

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━同時刻. 「……いよいよか……」 場所は変わり、艦内の一室。 軍服に身を包んだ一人の水兵が、独り言か、あるいは私にそっと囁き掛けるように呟いた。 「敵は残存艦艇で連合艦隊を組み、待ち伏せしていたか……ロシアのバルチック艦隊を撃滅した日本海海戦以来……約37年ぶりの艦隊決戦だ……」 彼はそう呟くと、溢れんばかりの闘志を放っていた瞳を静かに閉じた。 「……奴等はこの海域で俺の友人と兄貴を乗せた輸送船を沈めやがった鬼畜野郎共だ……絶対に許しはしない……!」 くぐもった声でそう呟く彼の肩は、憎悪を抑えきれず震えている。そんな彼に気の効いた言葉など掛けることも出来ない私は、ただ己の不甲斐なさを情けなく思うことしかできなかった。 「必ずこの弔い合戦に大勝してみせるぞ!」 その後しばらく黙り込んでいたが、彼はやがて自身を鼓舞するように覇気の籠った声を発すると、私から手を離し、フゥ、と一息吐いた。 「おうおう、随分と気合いが入ってるな前原」 「っ!高野さん……」 そこへやってきたのは先程の彼の先輩にあたる水兵。 「威勢が良いのは若いもんの長所でもあるが、それ故に冷静さを欠いてしまえば、たちまちお前が敵に向けている殺意は己の喉元へ突き刺さることになるぞ……」 「それはわかっています……!しかし、自分は連中を一人でも多く殺したい!先の戦いで奴等に殺された兄や友人の為にも……俺が戦功を挙げないと……二人が報われません……!」 「お前の気持ちはよくわかるが、ならば尚更頭に昇った血を下げろ。殺る前に殺られては元も子も無いだろう」 「それは……そうでありますが……」 「あくまで冷静に任務を全うするよう心掛けろ。いいな?」 「…………」 そう諭すように言われては、彼も頷かずにはいられないようで。 「……はい、了解しました」 観念したように上官を見つめ、敬礼する。少しは気持ちも落ち着きを取り戻したようだ。 「よし、この話は終わりだ。持ち場へ戻るぞ」 「はい……」
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