目標、前方。浮遊中の敵兵

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━━翌日. 03月02日 午前10時40分 駆逐艦『雷』 スラバヤ沖での海戦は、日本海軍の圧勝という形で幕を閉じた。 しかし、連合艦隊が壊滅した後も、依然として米蘭の潜水艦が複数同海域にて活動しているとの情報もあり、日本海軍側としては戦勝の余韻に浸りながらも警戒を怠れない状況が続いている。 私自身、結局味方の善戦もあって大きな怪我を負うこともなく、また、工藤艦長や周りの戦友達が一人も欠けることなく『今』を迎えられていることに心底ホッとしているが、今後も無傷で乗り切れるという保障は何処にもない。 非常に嫌なことではあるが、敵を殺す準備は常に整えておかなければならないのだ。 ……そして、眉のシワを取り除けない若者、もとい前原が私の側に一人。 そんな彼の上官にあたる高野が声をかける。 「……おい、前原。なんだその仏頂面は?」 「……高野さん……勝利したことに関しては嬉しく思いますが……正直言って不完全燃焼です……このままでは気が収まりません……!」 そういう彼は拳を強く握り締め、更にその表情を歪める。声を掛けた隣の男は困ったように苦笑いを浮かべることしかできないようだ。 ……そんな前原という若者の憎悪に満ちた表情は、いつも私の胸にチクリと突き刺すような痛みを与える。 兄弟や友人を殺されたというその気持ちを否定するつもりなどはない。だが……だからと言っていたずらに負の感情で己を染めてしまっては…… 彼だけに限った話ではない。 私の周りには、連合軍に対して過剰なまでの憎しみを抱く兵士達があまりにも多い。 ……軍人として戦争に従事していく内に、彼らは『人として大切な何か』をいずれ喪失してしまうのではないか。 そう考える度、何とも名状し難い苦痛に胸が痛む。
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