第1話

【水仙の花】

　ｾﾙﾛｲﾄﾞの玩具を買おう、ｾﾙﾛｲﾄﾞの玩具を買おう、と私は一心に自転車を走らせた。

　ｾﾙﾛｲﾄﾞの玩具、ふれば鈴の音がするｶﾞﾗｶﾞﾗという名の玩具を買おう、とそれだけが頭の中にあった。

　赤ん坊だった長男が死んだとき、まっ先に私は、そうしなければならないと思った。

　街の玩具屋に行って、ｶﾞﾗｶﾞﾗを一つ買って、急いで帰って冷たくなった一馬の頬にくっつけるようにして置いた。

　生まれて八ヶ月目の長男を肺炎で亡くしたときの話です。

　じっとしていてはいけない、と思っていたのだ。また自転車に乗って、こんどは、街はずれの従兄弟の家へ走った。従兄弟の庭には、いつも花がいっぱい咲いている。

「花を下さい、花を下さい」と自転車を漕ぎながら、口の中で繰り返していた。

　従兄弟の家の玄関に立って、「赤ん坊が死にました。花を下さい。なるべくたくさん下さい」と言った。