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満開の桜の頃に突如として墨染に変わる木が現れる。
そして、その木に触れると外傷も無いのに死亡する。
ここ最近、囁かれ始めた都市伝説だ。
その都市伝説の影響か、検非違使庁(けびいしちょう)には苦情の申し立てが引っ切り無しに来ていた。
検非違使庁とは、平安京の治安を守る役所だ。
「だから、その件はこちらでは無く陰陽寮へお願いします」
窓口対応の若い男性係員の声が検非違使庁の入口に響き渡る。
その声は、少し苛々していた。
物の怪などの霊障は陰陽寮の管轄だが、一般人にはそれが霊障かどうかの違いなど分からない。
人の様な者が襲うのを見たと検非違使庁に通報してくる者もいる。
当然、陰陽寮も苦情の電話が鳴り止まない状況だ。
それ故、今回は検非違使庁と陰陽寮の合同調査班が組まれた。
その合同調査班の一人、陰陽師の土御門翡翠(つちみかど ひすい)は浮かない顔をして検非違使庁の入口から出てきた。
「式も飛ばして警戒してる中、また被害者が出たか…」
物の怪や霊障ならば式が反応するが、墨染め桜の怪には式は反応しない。
それ故、対応が後手後手に回り被害が食い止めれずにいた。
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