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もう少しで現場に到着するまさにその時、人が墨染めの桜へと近寄るのが見えた。
「くっ…」
しかし、式のスピードはこれ以上早くならない。
それでも何とか助けようと翡翠が式を呼び出そうとしたその刹那、また桜が揺らいだ。
黒い霞の中から仄かに光を纏った女の姿が現れ人が桜に近寄るのを阻止した。
しかし、実体が無い霊体の女性の身体をすり抜け、その者は操られているかのように桜に触り倒れ落ちる。
その倒れた者の横で女性は、肩を震わせるとすうっと消えた。
その後、黒い霞が消えると桜も元の淡紅色に戻った。
「あの女性は…亜子姫。陰陽師一族の姫ならば、人々を守って当たり前だが…何故霊体なのだ」
霞の中から現れた女性を見た翡翠は、暫く呆然としたが気を取り直すと被害者の所へと急いだ。
しかし、その者は生気を吸われ生き絶えていた。
「亜子姫とこの桜の怪がどう結びつくのだ」
死者の瞼を閉じらせながら翡翠は呟いた。
数年前の事、まだ陰陽師として働き出したばかりの翡翠は悪鬼退治で平城京へと出向いた折に、偶然亜子姫を悪霊から守った事があった。
「姫は…何処に…」
翡翠は、平城京へ向かう事を決めた。
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