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「これは…桜の花弁」
しかし、辺りを見渡しても桜の木など無い。
不思議に思っていると、また花弁が舞い落ちた。
「墨染め桜の怪と関係があるのか?」
翡翠が一歩前に歩くと、花弁がふわっと視線を横切る。
それはまるで翡翠を案内するかのように、ひらひらと舞い誘う。
「罠…だろうな。ふっ、面白い」
益々濃くなる霊障の中、式符を持つ手に、知らず知らず力が入る。すぐに式を呼び出せる態勢で、翡翠は花弁の後を追った。
そして、辿り着いた先の光景に翡翠は目を疑い立ち止まった。
そこには術式が書かれ、中心には大きな墨染めの桜があり、その根元には横たわる人物が居た。
術式の中心部の桜から放出されている霊障が、強風に感じられ翡翠は一歩も前に踏み出せない。
そんな強風の中、翡翠は目を凝らし根元の人物が亜子姫だと確認した。
「くっ、この厄介な霊障を滅しないと近寄れないか」
翡翠が式符に念を込めようとしたその時、後ろから場にそぐわないのほほんとした声が掛かった。
「あー、翡翠殿。急に居なくなって…って、人が倒れてるじゃないですか」
その声の主は、翡翠が止めるのも待たずに姫の所へ走り寄った。
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