墨染の桜の花弁が淡紅色を取り戻す時君は何を知るだろう

8/11
前へ
/13ページ
次へ
「これは…桜の花弁」 しかし、辺りを見渡しても桜の木など無い。 不思議に思っていると、また花弁が舞い落ちた。 「墨染め桜の怪と関係があるのか?」 翡翠が一歩前に歩くと、花弁がふわっと視線を横切る。 それはまるで翡翠を案内するかのように、ひらひらと舞い誘う。 「罠…だろうな。ふっ、面白い」 益々濃くなる霊障の中、式符を持つ手に、知らず知らず力が入る。すぐに式を呼び出せる態勢で、翡翠は花弁の後を追った。 そして、辿り着いた先の光景に翡翠は目を疑い立ち止まった。 そこには術式が書かれ、中心には大きな墨染めの桜があり、その根元には横たわる人物が居た。 術式の中心部の桜から放出されている霊障が、強風に感じられ翡翠は一歩も前に踏み出せない。 そんな強風の中、翡翠は目を凝らし根元の人物が亜子姫だと確認した。 「くっ、この厄介な霊障を滅しないと近寄れないか」 翡翠が式符に念を込めようとしたその時、後ろから場にそぐわないのほほんとした声が掛かった。 「あー、翡翠殿。急に居なくなって…って、人が倒れてるじゃないですか」 その声の主は、翡翠が止めるのも待たずに姫の所へ走り寄った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加