第1章

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 独立記念日といったところ。  「いえ、そうでは無くて、食欲の方です」  「…………? ああ」  言われてみればそうだった。  以前――といっても、ちょっと前の事だ――の僕は、全く食べたくなかったのではなかったか。  それが今ではこうなのである。  ご販――ふっくら美味しいな。  焼き魚――いけるいける。  高野豆腐――ナイス食感。  この変化は何なのか。その美味たるや、当社比3.7倍といったところ。  「うん……何か、妙に食欲があるな。何だだろ?」  「でも、いい事です」  「うん……でも、君は残念かもね」  「???」  「だって、手伝えなくて」  「……意地悪ですね」  軽く口を尖らせた。ちょっと珍しい表情。  いつの間にか、こんな軽口をたたけるようになっていた事を、僕は嬉しく思った。  (食欲……か)  けれど、ほんとにどうしてなんだろう? 遅れてやって来た成長期? いや、まさか……。  (あ……)  昨日、アイスを食べながら言われた言葉が思い出された。  病は気から。  もしかすれば、僕は、自分で自分の背中を、ある一点へと推し進めていたのかもしれない。  死、という縁へと。  その向こうには、魂ひしめく海がある。  「でも、こんな風に食べられるようになったのは、君におかげかもしれない」  「どうしてです?」  「いや……はっきりとした理由があるわけじゃ無いんだけど」  「…………」  少女は不思議そうに首を傾げた。  僕は、しゃくしゃくとご飯を噛んだ。  それが何を意味するのであれ、僕には変化が訪れた。  物事が静止状態を打破するには、何らかの力が必要だ。慣性の法則もそう言っている。  その力とは?  それは考えるまでも無かった。  その目には見えない力を持った少女は、今は鳥にご飯をあげていた。  「そう言えば――」  と僕は、前から不思議に思っていた事を口にした。  「どうして腹話術なの?」  「え?」  「いや、その鳥さ。誰に見せるわけでも無いんでしょ? なのに、腹話術だなんて……」  「…………」  迂闊なフレーズを口走った事に、数秒して気が付いた。  「あ……と、ごめん」  「いえ、いいんです」  そう言ってくれたものの、その表情は沈んでいて、僕は滑った口を悔やんだ。食べ物がヤスリになっていたのか。
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