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二時間経過。
思いのほか盛り上がった、この男と女の駆け引き事情を、
傍から見ている男二人。
一人は、俺、橘了。
あだ名は、りょうちゃん、りょう、たまに、
もういいか、このくだりは。
俺は、同性愛で、ゲイで、ホモで、
もっと言うと、苛めて焦らして攻めたい主義である。
ネコじゃないのよ、体は、ハッハー。
恋人に主導権を握られそうになると、
有名なフレーズの歌詞を変えて体勢を逆転させるという、
そんな遊びを覚えた。
そんな俺の手を壁に隠しながら丁寧になぞる、
二人目は、この男、名前は、橘凌。
あだ名は、もういいや、なんでもいいや。
とりあえず、今のこの状況を説明すると、
「指、綺麗だね。」
「あなたのほうが綺麗ですよ。」
こんな会話をした俺たちは、トイレ行ってくるとその場を離れ、
通路にある少し古びた木の椅子に座り、
元いた席を見ながらヒソヒソ話をしている、という体で座っている。
二人の女子がこちらを見ながらそわそわしているのがここから見てもわかる。
お前たちの話をしているとでも思ってんのか。
馬鹿だな、そういう体なんだよ。
せっかくだし、少しこの状況を楽しんでみようかな。
「橘さんって、彼女いるでしょ。」
「彼女はいない。」
そうやって俺の中指の腹を少しだけ引っ掻いた。
「からかってませんか、俺のこと。」
「何が。」
何にも考えてませんよみたいな顔がいかにもそそるんだよ。
「俺、そっちじゃないんで。」
「どういう意味だよ。」
まだ二人の指は絡まったままだ。壁の温度を上げる根源はこちら側にある。
「だから、男には興味ないっていうか、
そもそも合コンに参加してる時点でわかるでしょ。」
「あーそうなの。そっちの意味ね。」
「他にどういう意味があるんですか。」
斜めに向いていた彼の視線が俺にぶつかるのを感じ、少しだけ体が震えた。
「ネコちゃんじゃないっていうんだと思った。
だって、隆のことあんなにしつこく攻めるんだもの。」
「え。」
体温が、俺の体にある血液が、温度を失ったのか。
言葉を失うのはまだ早いと思い、とりあえず声を絞り出した結果、
一言だけしか出せない自分がいた。
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