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北国の田舎町、冬になれば氷点下の気温、ここに住む者は春を待ち望んでいた。
繁華街の小さなバーのマスターは、カウンターの端の席に、お酒を一杯出している。
「今日も雪か・・・」
窓の外には雪が、ちらついている。
そんな小さなバーで、お酒を酌み交わしている若者。
「私、雪が好きなの」
そんな話が聞こえて来た。
マスターは、無口に酒を作っている。
「マスターは、雪が好き?」
マスターに問いかける女性、常連の涼子であった。
「嫌いだね」
「あら、そうなんだ」
涼子は少しガッカリして、また仲間の話に戻った。
涼子の右隣には、彼氏の賢一で左には同僚の聖美が座っていたが、涼子は調子が悪いのか、顔色が冴えなかった。
三人が席を立ち、賢一が会計をして帰って行った。
翌日、天気予報では大荒れの天候になると叫んでいた。
そんなに、荒れるのか? 住民も恐る恐る蓄えを準備していた。
マスターは、店を開けるかどうか迷っていた。
二、三日、荒れる様だから、今晩開けて人が来なかったら、次の日からは休もうと思っていた。
店を開け、グラスを拭きながらお客を待っていた。
やはり、誰も来ない。外は猛吹雪、人など歩いていない。
21時を回った頃、一人の客が店に入って来た。
「涼子ちゃん、良く来たね。こんな吹雪に」
「私、雪好きなんで」
涼子が一人で店に来て、マスターは驚いていた。
今日は、店を閉めようと思っていたが、涼子の相手をしてから閉めようと決めた。
涼子にマスターが、
「涼子ちゃん、今日は一杯おごるよ」
「有り難うマスター、でも一杯で帰ります」
「いいよ、こんな日に来てくれたからね」
マスターは、涼子の好きなお酒を出した。
いつもは無口のマスターではあったが、今日は静かな店内。
「涼子ちゃん、なんで雪が好きなの」
「キャベツだって雪の下に置くと、傷みもしないで美味しくなるじゃない」
笑いながら答えた。
マスターは、不思議な答えに「なるほど」としか言えなかった。
一杯飲み終わると、涼子は店を後にした。
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