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その老人は、黒いつば付きのフェルト帽を被り、黒いロングコートを着ていた。
まぶたが隠れるくらいに白くて長い眉毛の下に、無邪気な瞳を覗かせ、鼻の下から顎にかけて覆われた真っ白な髭は、サンタクロースを彷彿させた。
恰幅がよく、常に笑みを浮かべている。
コートの胸元からサファイアのような青い眼をした小柄な黒猫を覗かせ、その襟元には3つ葉クローバーを模ったエメラルドのピンバッチを付けていた。
日曜日、昼下がりのカフェテラス。睦子(むつこ)は上唇についたカフェラテのスチームを舌で拭いながら、今しがた会った不思議な老人の話を僕に告げた。
今いるカフェの近くにある公園は、僕らが待ち合わせの際によく利用する場所だった。
噴水前のベンチに座り、文庫本を読みながら僕を待っていた睦子に、その老人は声を掛けた。
「ステキな夢が見れる不思議なお菓子はいらんかね?」
いつの間にか、彼は睦子と同じベンチの端に腰掛けていた。
一体いつから、彼がそこにいたのか睦子は解らなかった。
人懐っこい笑みを浮かべながらそう訊いてきた老人に、なぜか睦子の疑心は払拭された。
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