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僕は睦子の住むアパートを訪ねた。
何度もインターホンを鳴らし、ドアを叩いた所で、中から部屋着姿の睦子が出て来た。
「ごめん、寝てて気づかなかった」
そう謝って、睦子は僕を部屋に招き入れた。寝起きのはずの睦子の表情は妙にいきいきとしていて、口元には絶えず笑みを浮かべていた。
プルプルを舐めていたのだと、瞬時に悟った。ほのかに甘い果実の香りが漂っている。そうだ、この匂いだ。堪らず匂いを噛みしめる。
ローテーブルの上にさり気なく、プルプルの箱は置かれていた。
睦子はベッドの端に腰掛け、僕はテーブルを挟んだ床に座り、彼女と対峙した。
「ずっと連絡取れないから心配したよ」
「最近、ずっと体調悪くて、寝てばかりいるの。携帯も……あぁ、電源切れてたみたい」
彼女はテーブルに置かれた携帯を一瞥して答えた。その視線は、プルプルの入った灰色の箱を捉えた瞬間、釘づけになる。
「___悪いけど、今日は帰ってくれる?私、もうひと眠りするから」
僕と話すのが気だるくなったのか、彼女は溜息を吐いた。
「僕を帰して、自分1人でプルプルを楽しむつもりなのか?」
思わず出た一言に、睦子が眉根を寄せる。
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