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「大和守家の内紛において、どちらにも組せず局外中立を保った故ではないかの?目先有利な弾正忠家にも、勝手に自滅した大和守家にも付かんかったからこそ、今があるのではないかの?勢力を保ったから故の斎藤家からのお誘いではないのかの?」
「かのかのかのかの煩いのじゃ!」
信賢は、信安の年の割りに覇気の乏しい物言い、考え方が嫌いだった。一世代上のご隠居と話しているような錯覚を起こしそうだ。
「その隠忍自重も立つべき時に立たねば、只の隠遁じゃろが!」
「はぁ……」
信安は、いっそ感嘆したかのような溜め息をついた。
「大和守家の者どもが、否、今は弾正忠家か?その者どもが共喰いしている最中に、何が嬉しゅうてノコノコ出て行かねばならんのかの?左兵衛殿は働き者よのう」
堪り兼ねた信賢は立ち上がった。
「ああ、そうじゃっ。左兵衛は働き者故、一働きさせてもらう!」
信安は、どう思われていようと引退するほど老けてはいない為、当然家督を譲ってはいない。信賢が自由に動かせる兵は多くはなく、戦を仕掛けることはないだろうと、立ち去る息子を見送った。
しかしながら、その信安の予想は半ば当たり、半ば外れることになる。
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