決戦 桶狭間(中編)

75/75
353人が本棚に入れています
本棚に追加
/906ページ
「我は、そなたと共に消えるのです。伝えたければ生還して」  信長は襲い来る敵足軽を手にした槍で薙ぎ払った。 「無茶を言うな」  気が付けば、周囲の敵が全て信長を目指していた。 「皆先に行ったか」  更に二人を薙ぎ倒す。  瑞兆の加護の残滓かも知れない間が出来た。  家督相続以来の足跡が走馬灯のように蘇る。  これで後世、語り継がれる生き様を刻めただろうか。 「出来ればもう少し長く、いや」  信長は苦笑した。 「今のは無いっ」  薄れ行く光点の集まりを纏い、信長は足を止めた。  完全に取り囲まれたようだ。 「「いや」」  そして。  無数の槍先が信長に迫るところが、最期に見えた光景だった。 「「いやあああっ、信長様ぁ!!」」  永禄三年五月払暁。  吉兆は自らの絶叫で目を覚ました。
/906ページ

最初のコメントを投稿しよう!