決戦 桶狭間(後編)

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 正確には、最後まで話せる状態ではなくなった所で、察した瑞兆が吉兆の物語りを止めたのだった。  またしても涙を溢れさせ、(むせ)び泣く吉兆を前に、瑞兆は溜め息をついた。 「これほど長く、緻密な夢。これは、やはりしまったのでは……」  とそこで、吉兆に目をやった瑞兆は絶句した。  そこには、虚ろを通り越してもはや(むくろ)と化した吉兆が、無表情に俯いていたからだ。 「いやっ、そうとも限らないのです」  瑞兆は慌てて前言を撤回した。 「この我が、こんなに大人しく引き下がり、傍観に徹するような真似をするはずがないのですよ」 「でも姉様は、最期には自らの存在を賭して力添えを……」  またその場面を思い出して泣き崩れる吉兆を、瑞兆は困った顔で見守りながら言葉を探す。  昨夜、瑞兆の取り付く暇さえ無く歩み去ろうとした信長の前に、出ることも追い縋ることも儘ならなかった吉兆である。  しかも、夢が本当なら今夜には信長に門前払いを受け、立ち(すく)んで悄然と引き返してしまうことになる。  信長の拒絶に対して儚いまでに臆病な吉兆を、どう励ましたものか瑞兆は暫し思案していた。  その末に、決然と口を開く。 「泣いていても始まらないのです」
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