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「……それは、分かっていても、どうすることも」
「簡単なことなのですよ」
「?」
「吉兆が、夢と異なる行動を取れば良いのです。それが出来れば夢はただの夢だった、と知れるではないですか」
「そ、れは……。今夜、信長様に会えということですか?」
「夜でも昼下がりでも、会えば良いではないですか」
「そんな……、それで、にべもなく、あしらわれたら」
日頃の聡明な吉兆は見る影もなく、譫言のような虚ろな声だった。
「例えそれでも、最悪の結末が確定したものではない、と知れるのですよ」
「で、でも。あの結末が変わるとも限らない、大差無いかも知れないではないですか」
「だから、余分に憂き目を見なくてもいいじゃない、とでも言いたいのですか?」
「……」
「よく考えてみるのです。このまま見送ってしまえば、どうなるか分かっている信長様を目の前にしても、吉兆は何も出来ないと言うのですか?」
「信長様の拒絶に、何も出来ないのは姉様だって同じことではないですか」
「我は力が使えずとも……」
瑞兆は一瞬、言葉を躊躇した。
「吉兆の夢の中でも、あるじ殿に寄り添い続けたのですよ」
そして二人がこの世を去ろうという時、吉兆は何処に居ただろう。
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