6人が本棚に入れています
本棚に追加
検査の途中経過を確認しながら
病院の廊下を歩いていると
聞き覚えのある声が響いてくる
「痛い!アンタ痛いよ!だから無理だって言ってるべさ!もう20年も外れないんだから!」
「佐藤さんが力を抜いてくだされば外れますから。貴金属を着けたままCT検査は出来ないんですよ」
検査室に入ると母と看護師が
石鹸の入った洗面器を挟んで言い合っていた。
「母さん、何やってるのよ。早くしないと次の人来ちゃうから」
「昌子、この看護師。痛いって言ってるのに止めてくれないのよ、私は別に訳のわからん機械に入らなくても大丈夫だべさ」
子供の様な言い訳をする母の左手を取り
石鹸で結婚指輪を外そうとするが
薬指の第2関節が邪魔をして取れる気配はない
「母さん、力抜いてよ!」
「痛い!何するの!アンタそれでも医者なの?どうやってもこの指輪は外れないって、何度言ったら分かるべさ」
親子で言い争いをしていると
聴覚検査を終えた父が検査室に入ってきた
CT装置と私達を交互に見比べる
「もう、機械を怖がる歳でもないべ」
父は小さく呟き母を見つめた。
「こんな輪っかで別れたりはしない。終わったら、またつけてやるから」
そう言うと母の指輪をすっと外し
検査室を出て行った。
呆気に取られる私と看護師。
少し間の後
「もう、指が千切れたかと思ったべ、人の痛みを考えられん人でなしだね。優しさの欠片もないわ」
ブツブツ言いながら連れられていく
母の耳は少し赤かった。
最初のコメントを投稿しよう!