シルバーリング

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検査の途中経過を確認しながら 病院の廊下を歩いていると 聞き覚えのある声が響いてくる 「痛い!アンタ痛いよ!だから無理だって言ってるべさ!もう20年も外れないんだから!」 「佐藤さんが力を抜いてくだされば外れますから。貴金属を着けたままCT検査は出来ないんですよ」 検査室に入ると母と看護師が 石鹸の入った洗面器を挟んで言い合っていた。 「母さん、何やってるのよ。早くしないと次の人来ちゃうから」 「昌子、この看護師。痛いって言ってるのに止めてくれないのよ、私は別に訳のわからん機械に入らなくても大丈夫だべさ」 子供の様な言い訳をする母の左手を取り 石鹸で結婚指輪を外そうとするが 薬指の第2関節が邪魔をして取れる気配はない 「母さん、力抜いてよ!」 「痛い!何するの!アンタそれでも医者なの?どうやってもこの指輪は外れないって、何度言ったら分かるべさ」 親子で言い争いをしていると 聴覚検査を終えた父が検査室に入ってきた CT装置と私達を交互に見比べる 「もう、機械を怖がる歳でもないべ」 父は小さく呟き母を見つめた。 「こんな輪っかで別れたりはしない。終わったら、またつけてやるから」 そう言うと母の指輪をすっと外し 検査室を出て行った。 呆気に取られる私と看護師。 少し間の後 「もう、指が千切れたかと思ったべ、人の痛みを考えられん人でなしだね。優しさの欠片もないわ」 ブツブツ言いながら連れられていく 母の耳は少し赤かった。  
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