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言いようのない虚しさに襲われた俺は、
なんとかそれらを拭い去るために
飲みかけのコーヒーが入ったカップを口につけ、
残りを全て飲み干した。
もうすっかり冷めてしまったコーヒーの味は、
さっき口にした時よりも酷く苦く感じられた。
それはまるで、
一年もの間、胸の奥で膨らんでしまってた、
叶うことのなかった恋のように……。
そんな乙女のようなことをぼんやりと考えてしまった俺は、
自嘲の笑みを漏らしながら足元のゴミをやる気なく掻き集めて、
ゴミ箱へと放り込んだ。
机の書類を片付けるために椅子に座って、
何気なく前に視線を向けると、
数ヶ月前まで、
俺が主任を務める品質管理部の部下だった、
高岡芽依(タカオカ メイ)の席が視界一杯に映しだされた。
伝えることもなく散ってしまった恋の相手だ。
残酷なことに、
高岡が選んだ恋の相手は、
高校の時の同級生でもあり、俺の腹違いの弟、
獣医師の五十嵐海翔(イガラシ カイト)だった。
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