*1*

3/19
6962人が本棚に入れています
本棚に追加
/452ページ
黒木愛は、 背筋をピシッと伸ばして俺のデスクまで近づいてくると、 「なんでしょう? 松岡直樹(マツオカ ナオキ)主任」 ツーンという効果音が聞こえてきそうなほどの冷たい表情をして、 これまた冷たい口調で言ってきた。 俺は、 眉間に寄った深いシワを片手で押さえながら、 「……お前、そんなツンケンした態度で回収行ったら、治まるもんも治まんねぇじゃねぇかよ?」 苦笑いを浮かべたまま、 あんまりキツい口調にならないように注意しながら、 茶化すように言ってみた。 すると、 「大丈夫ですよ。ちゃんと相手に合わせて対応できますから」 なんて言葉が投げて返された。 こ、コイツ、今ハッキリ言い放ったよな? 相手に合わせてるって……。 自分では見えないが、 俺はきっと、 額に青筋を立てながら、 本日最大の溜め息を隠すことなく豪快に吐き出して、 「もう帰っていいから。くれぐれも、丁寧な対応してきてくれよな……」 仕方無く、回収先の詳細を書いてあるメモを黒木愛に託したのだった。 「はい。それじゃ、お先に失礼します」 最近の俺の悩みの種である黒木愛は、 またシッカリとした口調で返事を返すと、 背筋をピーンと伸ばして颯爽と帰って行った。 俺は、その背中を見送りながら、 また溜め息を吐き出してデータ入力を再開させたのだった。
/452ページ

最初のコメントを投稿しよう!