序章

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(何なんだ、これっ、まだ、死にたくないよっ……!)  俺はこれまでこんなに必死になったことはない。 マラソン大会だってこれで精一杯だとその時は思ってたし、例えば小さい頃に近所の犬に悪戯して追いかけられた時だってこれ程じゃなかった。  今現在、これでもかという位の全力疾走をしていた。 生存本能がむき出しになり、怖い、死にたくない、只それだけで頭が一杯で足を前に動かしている。 自分の吐き出す、は、は、という呼吸する音が耳に大きく聞こえる。 肺から血でも出ちゃうんじゃないかと思う位、大きな恐怖から必死になって逃げていた。 (っ!!!) つい、振り向いてしまう。 怖いのに見てしまう心理だった。 後ろからは巨大な影が迫っている。 木や丈の高い草が薙ぎ倒される、ドン! ザアァ! という音が真後ろで聞こえた。 (もう、駄目だっ) 身体中の力を出し切って、もう走っている足の感覚なんてなかった。 ぎゅっと目を閉じ、プールに飛び込むみたいに前のめりに倒れ込んだ。
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