序章

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「いってきます」  俺は都内の私立高に通っている16歳の高校生だ。 梅雨が明けたって予報では言ってたけど、むわっと湿気があって暑いその日は夏休み前の学期末の最終日だった。  朝から苦手な科目のテストの予定のせいで、夜中まで勉強していた。 俺はかなり寝不足だった。 元々頭が良くないのに、親の期待が異常に大きくて塾通い勉強浸けでやっと受かった高校だ。 そんなだからか、入学しても授業に付いて行くのもやっとな感じで、遊びにも行けないし部活もやっていない。  入学してから今まで、特に仲の良い友人は出来なかった。 周りは中等部からの持ち上がり組みが大半で、気がついた時には外部受験組にも既にグループらしきものは出来上がっていて、そのままのクラスで二年目に入っている。    中学時代に友人関係で色々あったせいもあり、面倒臭くて自分から他人に無理に溶け込もうとは思わない。 休み時間は机に向かってノートを広げている奴も多いし、友人を作らなくてもさほど目立たない。  周りより少しだけ浮いた大人しいと思われている、真面目そうで空気みたいな男子学生というのが俺の印象だ。 背丈は160センチ位で細身。 後ろでひとつに縛れるくらいに伸ばし放題の長めの髪はテストが終わったら切ろうと思っている。 半袖のシャツから覗く細い青白い腕が恥ずかしく感じた。 ここ数年運動より勉強ばかりしていたからだろう。 (あー。怠い……)  テスト期間中の寝不足と風邪気味だったからか朝食も喉を通らなかった。 駅まで近道をしようと商店街の細い裏通りに入った所で、貧血みたいに頭がクラリとして身体が左右にふらついた。 目の前が砂嵐みたいになってきて気分が悪くなり目を閉じる。 (これ、やっぱ、貧血かも) そう思って右側の飲み屋か何かの汚い壁に手を付いた。 「……は? あれっ?」 手を付いた筈の壁の感覚が無くそのまま通り抜ける。 間抜けな声を出した俺はその後、真っ暗な世界に落ちて行き意識を失ったのだった。
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