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中学の時からだ。
岸が嬉しいそうにその人の写真を見せるから、
次第に俺はその人に苛立ちような感情を覚えるようになった。
今思えば、それは嫉妬だったんだろうな。
その人の写真は、岸の家の玄関と居間と岸の勉強机の上の、全部で三ヶ所に置かれていた。
そして、全ての写真の傍には綺麗な花が飾られていた。
その時の俺はもう中学生で、その写真と花の意味をある程度の予測はしていた。
そして、その予測が確信に変わる前に、俺はその人の写真を見る度に、どす黒い感情を抱いた自分を殴りたくなった。
その人は岸の隣で話すことも、笑うことも、何もできないんだと。
それに引き換え俺は、岸の隣で話すことも、笑うことも、何でもできるんだと。
岸の最強に、俺は少し勝った気がした。
でも、それはほんの一瞬で、
ガラスに反射した自分の顔の醜さを見たと同時に、
その後に何倍もの後悔が俺に押し寄せてきた。
それから、俺は、その人の写真を見る度に、その反射した自分の顔を笑顔にする努力をした。
岸の最強の存在と、対等になりたかった。
眩しいくらいの笑顔を向けるその人に、少しでも抵抗したかったのだ。
その時からだろうか、岸は定期的に俺にその人の写真を見せてくれるようになった。
そんなことを思い出していた俺は、岸が至近距離にいることに気づいていなかった。
「そんなに好きだった?兄貴のこと。」
目の前にいる岸の呼吸が、自分の呼吸と混じるようなそんな距離だった。
「兄貴が好きなんだったら、俺のことも好きになったりしないの?」
岸の長い指が俺に首を捉えてからの数秒間、俺は体の力が入らない感覚を心地いいと感じてしまった。
そうか、これが、恋なのか。
辞書なんて、必要ないじゃん。
これこそが、恋なんだ。
to be continued...
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