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「そんな嘘、信じるわけないじゃん。」
よし、かろうじて声はちゃんと出てる。
裏返る要素もない。この調子で話し始めたらいいんだ。
目線を合わせないように、岸の眉間に視線を集中させて話した。
「そんなことでわけないから気にするなよ。
それより俺、買い物しないといけないんだったわ。
母さんに頼まれてんだよ。ごめんな、もう行くわ。」
俺はそう言って立ち去る準備を始めた。
これでいい。これでいいんだ。
明日からは普通に戻れる。
恋ではない。恋なわけがない。
少し綺麗な男の友達に、少し鈍感な男の友達に、
その癖わりと敏感だった男の友達に、
少し、焦ってるだけなんだ。
「俺の兄貴、覚えてる?」
岸の言葉に、俺の時間が止まったような錯覚を感じた。
もちろん、覚えてるよ。
お前の大切で大事で、最強な存在。
俺が越えられない、絶対的な存在。
そういえば、兄貴って呼ぶようになったのか。
前は兄ちゃんってちゃん付けしてたくせに、大人になったのか。
「兄貴の写真、よくお前見てたじゃん。」
岸の声が少しだけ震えているのを、俺は見逃さなかった。
「俺が見てたっていうより、あれはお前に見せられてたんじゃなかったっけ?勘違いすんな。」
少しだけ突き放した言い方をしたような気がして、つい岸の表情を確認してしまった。
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