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「おかえり、りょうさん。」
満面の笑みで俺を出迎えてくれた恋人の名前は、橘隆。
彼は俺のことをりょうさんと呼び、俺は彼のことを隆と呼ぶ。
出会いはよくあるバーのよくあるカウンターでのよくある話。
最初は大人っぽい顔立ちだったので年上かと思ったら、
同い年でしかも誕生日は俺の方が早かった。
しかし、年を聞く前に年上の人が自分の下で善がる想像をした俺は、
それを実行に移したい衝動に駆られた。
久々に快感という海に溺れるような、
身動きできないことこそが気持ちよく感じた、そんな夜だった。
それから何度か部屋を行き来するようになり、
一夜一夜の感覚がなくならないように何度も何度も夜を重ねた。
「もしかして、Sなの?」
シャツのボタンをつけながら俺の視界を覆うように隆が問いかけた。
「別に。どっちにでもなれるよ。あんたは?」
「別に。どっちにでもなれるよ。」
俺の言い方を甘い果実のようにとろける余韻にさせた、
その言葉に隠されたSの正体を、その時の俺はまだ知らなかった。
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