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挑発的な言葉を放った彼は、携帯を見下ろしたまま深津さんの言葉を待っている。
『……えっ……先生か?どうしてあんたが……』
静かな間を置いて流れ出て来たのは、状況を理解出来ずに戸惑いを露わにした深津さんの声。
―――本当に、深津さんの仕業なの?
私をずっと騙してたの?
動揺を隠せずにいるその声を聞き、背中に震えが走り抜ける。
「こんな姑息なマネをして、本気で麻弥が手に入るとでも思ったのか?
一時はあんたを男気のある奴だと信用したが……。こんな女の腐ったような奴だったとはな。ガッカリしたよ」
先生は吐き捨てるように言って、眉間に深いしわを刻む。
『姑息なマネ?……何の話だ?』
「麻弥の携帯のメール設定の事だ。俺を迷惑メールに設定したのは、あんただろ?」
『……何を言ってる?意味が分からない』
「この期に及んで、知らぬ存ぜぬを突き通すつもりか?……まぁ、いい。今夜はあんたと討論する気は無い。今度は俺がそっちに行くよ。麻弥の荷物を取りに行くついでに、今までのお礼を言いにな」
え……私の荷物を取りに行く?
先生、それって……
淡々と言葉を落としていく彼を見つめ、言葉を失っていた私は大きく目を見開く。
『……』
先生の言葉を聞いて、深津さんは今どんな表情をしているのか、何を思っているのか、……彼が返したのは言葉では無く、長い沈黙。
逃げ場のない濃密な静けさに包まれて、喉には不快な渇きを感じる。
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