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強く掴まれた腕から、熱い鼓動が波紋のように広がっていく。
夢なんかじゃない。彼の美しい栗色の瞳に映しだされているのは、私なんだ。
見つめ合う事さえもう叶わないんだと、本当は諦めかけていた。
また先生の手が私に触れて……
込み上げてくる感情で胸が熱い。
「先生、私ね……」――――言いかけたその時、
「やっぱ待った!俺から先に話す」
「えっ……、先生から?」
声を遮った彼を見つめ、眉を引き上げる。
「待ってて欲しいと頼んだのは俺だ。俺から先に正直な気持ちを伝えたい。
だけど、その前に麻弥に話さなきゃならない事がある。どうして雪菜の存在がありながら麻弥を求めたのか……それを伝えるためには、真実を隠したままじゃ本当の気持ちが伝えられない」
彼は私を見つめるその目に決意を宿し、重々しくも落ち着いた口調で言った。
真実を隠したままじゃ?……もしかして、今から先生が言おうとする事が、私だけが知らない真実なの?
彼の意味深な前置きで緊張感が増す。
私は硬い表情をして、恐る恐るコクンと小さく頷いた。
「雪菜がどうして真夜中に事故に遭ったのか、おまえに話して無かったよな」
降り下りる緊張感の中に、静かに放たれた彼の言葉。
雪菜さんの事故の真相?
やっぱり、香川さんが言った通り真実はそこに隠されていたんだ……
不吉な予感が迫り上がる。
「……うん、聞いて無い」
喉に上がった唾液を飲み込んで答えると、私は大きく頷いて彼を見つめ直す。
「……その夜、雪菜は当直をしている俺の目を盗み、幼い咲菜を一人マンションに置いて男に会いに行っていた」
空気に乗って流れ込んで来たのは、想像以上にわが耳を疑うような言葉で――――
え……
男に会いに行ってた?……男って、どうして?
あまりに突拍子もない言葉で、思考が定まらない。
「……えっと、それはどう言う……」
狐につままれたような顔をして、言葉を詰まらせた。
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