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「雪菜は不倫をしていた。それも、妻子ある男と……」
私の過去に対して気遣っているのか、それとも自分の現在の状況を責めているのか、はたまた両方なのか……彼は体裁が悪そうな表情をして、語尾を濁した。
「雪菜さんが不倫!?」
しかも、妻子ある男と……ダブル不倫を!?
真夜中に三歳にも満たない娘を置き去りにして、不倫相手に会いに行ったって!?
そんな極悪非道な母親は、虐待や車内置き去りか何かで報道されるテレビの中だけの話かと思ってた!
何よりも、この人が浮気するなら頷けるとしても、相手に浮気されるだなんて……
恐ろしい。考えられない。
あまりの衝撃で言葉が出ない。ポカンと口を開けたまま、彼をマジマジと見る私。
「その事実を知ったのは、事故の後だった。流石に参ったよ。心が弱っていた妻が、まさか浮気してたなんてな。……あんな姿になった雪菜を恨んでも虚しさが増すばかりで、当時は俺を囲む全ての人間を信じられなくなった」
「……うん」
「そして、毎日眠り続ける雪菜を見ていたら、ふと頭に過ったんだ。『何故、裏切られた俺が雪菜を介護をしなければならない?家族を裏切り、こんな姿になってまで生きる必要は無い』と。
狂った俺は、誰にも見られないように、雪菜に付けられた人工呼吸器の設定を変えた」
テーブルに片手を置き、重々しく言葉を連ねる彼。
「……呼吸器の設定を変えた?」
そんな彼を見つめ、私は眉根を寄せて首を傾げる。
「アラーム音を消し、呼吸器が送り込む酸素濃度を下げ、徐々に呼吸を止めようとした」
「……え?」
呼吸を止めようとしたって……
「俺は、本気で雪菜を殺そうとしたんだ」
彼は最後まで言うと、その顔に影を映して口を歪めた。
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