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雪菜さんの事故にそんな事実が隠されていたなんて……
その事故の後、幼い咲菜ちゃんを抱え、先生がそんな苦しみに耐えていたなんて……
家事をする家政婦としてでは無く、咲菜ちゃんの母親代わりでも無く、
初めから一人の女として、私を必要としてくれていたの?
私はずっと、あなたの言葉が欲しかった。
『おまえだけを愛してる』―――今度こそ、あなたの言葉を信じても良いの?
「ずっとその言葉を聞かせて欲しかった。……雪菜さんの事もそう。どうして、今まで本当の事を話してくれなかったの?半年もの間、ずっと側に居たのに」
涙で彼の顔が霞んで行く。
頬を伝って流れる涙を指で拭い、彼の目を見つめ声を震わせる。
「俺が麻弥にした事を、同情を買って雪菜のせいにはしたくなかった。…って堂々と言えたなら、それはそれで言い訳の一つになるんだろうけど。『妻に愛想尽かされて浮気された』なんて、カッコ悪くて言えないだろ?」
「カッコ悪いって……それが理由!?」
自嘲する彼を見て声を裏返した。
「大切な事ほど、一度タイミングを逃すとなかなか言えないものだ」
「でも、知らないのは私だけだった。香川さんだって、本当の事をみんな知ってるのに」
「香川さんか……彼女は、雪菜の唯一の相談相手だったからな。真実を知っているからこそ、彼女もこの三年間苦しみ続けて来た。知っていながら、雪菜の浮気を止めることが出来なかったと……」
彼は静かに視線を下ろし、表情に悲しげな色を塗る。
―――知っていながら、雪菜さんの浮気を止めることが出来なかった?
頭の中でリピートさせたその瞬間、とりとめのない大きな違和感が走り抜けた。
「もしかして……その不倫相手とはSNSで知り合った?」
「……ああ、そうだ。なぜ麻弥が知ってる?」
彼は少し驚いたような顔をして、眉根を寄せる
雪菜さんの浮気を止める事が出来なかった?だからずっと苦しみ続けて来た?
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