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――――違う。そうじゃ無い。
そうか……先生は知らないんだ。
雪菜さんの心の病に付け込んでSNSに引き込んだのが、香川さん本人だと言う事を……。
どう言葉を受け取っても、彼女を気遣っているとしか思えない彼を見て愕然とする。
『私があの子にSNSを教えて依存させたの。先輩からしたたかな女を引き離すために』―――あの時、私に言った彼女の言葉が鮮明に蘇る。
あの言葉の意味は、こう言う事だったの?
あなたが、雪菜さんが不倫をするように仕掛けたの?
恋のはじまりに親友のあなたが拍車を掛けて……
不倫と言う危険な恋の味に酔いしれ。大切な子供の、家族の姿も目に入らないくらいに恋に溺れ―――
香川さん。全てはあなたが仕組んだ事なの?
雪菜さんへの恨みを晴らし、先生と雪菜さんの仲を引き裂くために―――
得体の知れない黒い影に背中を撫でられる。
「みんな、彼女の手の上で転がされていた……」
怖気を震う私は壁の一点を見つめ、恐ろしいものに取り憑かれたような顔をして言葉を落とした。
「麻弥?彼女って誰だ?手の上で転がされたって……」
「先生、私も先生に言えなかった事があるの。本当は、もっと早く伝えるべきだった」
彼の腕を掴み、顔を引き攣らせ声を走らせる。
―――だけど、同じ女として私の口から言うのは卑劣だと思って、ずっと言い出せなかった。
先生と同じ。言い出すタイミングを失ってしまっていた、目を逸らすことの出来ない真実。
「香川さんは、ずっと先生が好きだったの。雪菜さんと同じで学生の時から、…ううん、本当は、雪菜さんよりも先に好きになったのは香川さんの方」
「はぁ?……麻弥、いきなり何を言いだし」
「本当なの!私、香川さんの口から聞いたの。……香川さんは雪菜さんを恨んでた。SNSに依存させたのは彼女の企み。彼女は雪菜さんの浮気を止めようなんて微塵も思ってなかった!」
私の手のひらに滲むのは冷たい汗。
迫るように彼の腕を掴む手が、恐怖で震えだす。
「あの人が私を追い出そうとしたのは、親友の雪菜さんのためを思ってからじゃない。……振り向いてくれなくてもいい。ただ先生を誰にも奪われたくないのよ。嫉妬に心が支配され、醜く歪んでいく自分をもう二度と見たくないから」
私は最後まで言い終えると、胸を叩き打つ気味の悪い鼓動を鎮めようと息を大きく吸い込んだ。
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