第21話 【嘘と誠と幸せと】

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「香川さんが雪菜を恨んでた?SNSに依存させたのが彼女だって?……まさか。彼女は雪菜の親友で」 「信じて!本当にそのまさかなの!」 彼の声を打ち消して張り詰めた声を上げる。 叩きつけるような私の声に驚き、彼は目を丸くして言葉を飲み込んだ。 「今日の昼休み、香川さんにカンファレンスルームに呼び出されて。その時に彼女から聞いた事なの」 「どうして彼女が麻弥にそんな事を言うんだ?麻弥に話したら、こうして俺の耳に入るかも知れないのに……」 額に縦ジワを刻んで難しい顔をする彼。 「たぶん、私と先生が別れたと言う確信があったからだと思う。…先生、香川さんと最近話をしたんでしょ?その…、私との関係が終わったとか、そう言う話を彼女としたの?」 考え込む彼を上目使いで見て、私は問う声を戸惑わせる。 「え?……ああ、一週間くらい前だったかな。彼女から声を掛けられた。『安藤さんは家を出て、今は深津さんと一緒にいるのね』って……おまえたち二人が一緒にいるところを、どこかで見たそうだ」 「えっ!?私たちを見かけた!?」 そんな事、昼間は一言も言って無かったのに…… 「だから、俺も彼女の言葉に頷いた。あのメールが送られて来た後だったからな…麻弥はもう、完全にあの男を選んだと思ったよ。あの男のものになったんだと……」 先生に聞く前から、香川さんは私と深津さんが一緒にいる事を知ってた? 先生は彼女の言葉に頷いただけで、自分から「終わった」と彼女に告げた訳じゃ無いって事? どこかで見かけたって、一体どこで見かけたの!? 後輩のお見舞いに来てる深津さんと、廊下で話をしてるところ?それとも、中庭のベンチに座ってランチしてたところ? ……ううん、 そんなのは見られたからってどうってこと無い。深津さんを選んだ理由にはならない。 私は顔をしかめ、昼休みに彼女から聞いた言葉を順に辿る。 「麻弥が言った事が本当だとしても、何も変わらない」 眉間を寄せて口を閉ざす私を見つめ、彼は息を吐く様な静かな声を落とした。
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