FRAGILE

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 僕はまだ音楽を知らない。毎日音楽を味わって食べているのだ。  音楽家は寂しい。 僕は手品を見るのが好きだった。右手から左手に渡したコインが手を開くと消えて客の耳の後ろから出てくる。初めてみたときの衝撃はすごかった。それから手品道具を買うようになり、日に日に手品を覚えていった。しかし、気づいてみると初めて手品を見た衝撃や感動は消えていた。タネを知っているから驚かなくなったのだ。それを思うと少し寂しくなる。 それと同じで音楽家も音楽を知ってしまえば音楽を味わえなくなる。とても悲しいことだ。僕はまだ音楽を味わっているつもりだが、そのうちあの恐怖と悲しみがやってくるのだろう。
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