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雪が降ったかと思えば真夏日が訪れたり。
「異常気象ってやつか」
黒い傘をさし、僕は散歩をしていた。
雨の日は嫌いではない。
だからって好きでもないが。
ただ、生暖かい曇り空とシトシト降り注ぐ雨音を聞くと、なんとなく落ち着いて物思いにふけっていられるからだ。
ふと前を見やると、見慣れた人間が同じように黒い傘をさして立っていた。
声をかける様な要件もないので、通り過ぎようとすればふと、彼女の足元に気がついた。
片方の羽を失ったアゲハ蝶がもがいていた。
彼女はこれを見続けていたのか、はたまた彼女が羽を毟ったのか。
「どんな痛みなんだろうって、考えてた」
彼女は振り返らずに呟いた。
僕はため息をついて、彼女の隣に傘を並べる。
しばらくして、彼女は唐突にアゲハを踏みつぶした。
「おい・・・」
「可哀そうだと思って」
「・・・そうかい」
「放っておいても、こいつは羽もないから飛ぶ事も出来ない。どうせ死ぬなら」
彼女はローファーの底を浅い水たまりに擦りつけて言った。
「一気に終わらせてあげたほうが、いいでしょ。」
確かにそうかもしれない。
しかしなんとなく後味の悪い僕は、彼女をきっと――…
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