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それからしばらく、彼女はウトウトと夢の狭間をさ迷っていた。
僕は書物を片手に、窓の外を眺める。
暗闇と、遠くに走る光の点が行き交う。
月明かりが妙に明るく辺りを照らしている。
「散歩に行こう。」
背中に声が飛んでくる。
振り返ると、彼女がベッドからむくりと起き上がるところだった。
「起きたのか。」
人のベットでよくここまでくつろげるものだ。
猫のようにゆっくり伸びをして、茶金の瞳が薄暗い室内を映す。
彼女の髪の色と、明るい瞳は学校でも何かと目をつけられているらしい。
染めているわけではないしカラーコンタクトでもなく、彼女の自前のものなのに。
近くに置いていたワインレッドの太フレームのメガネをかけて、茶金の瞳にフィルターがかかる。
眼鏡はない方が好きなのだけど、と思いつつそれを口に出した事はない。
実際、彼女はとても視力が悪いし、コンタクトが苦手なのも知っているからだ。
「歩こう。」
部屋を出て、家の裏の小さな山に歩を進める。
「幽霊なんて信じない奴でも、暗闇は怖いんだよね。」
彼女が楽しそうに言う。
「自然淘汰の末、暗闇を怖いと思う本能を持った奴が生き残ってきたからだ。」
僕がそう言うと、彼女はまた楽しそうに笑った。
「自然界では、大多数のなかに生まれた異物を排除しようとする本能がある。アルビノが代表的だ。敵や獲物に目立つ仲間は群れにとって死活問題になるからだ。」
僕の声が空気に吸い込まれ、
色素の薄い彼女の肌を月明かりが照らす。
驚くほど白い彼女の肌。
「暗闇を恐れない、自分の欲望のままに動く者を、社会は認めないって?」
それって、そうできない人の僻みっぽい気もするね。
彼女はスキップしながら歌うように言葉を紡ぐ。
彼女との会話は面白かった。
少なくとも、昼間、学校生活の中では得られない、滲む様な満足感。
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