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それは昭和から平成へと時代が移り変わった直後の出来事であった。8月1日。学生達にとっては夏休みの真っ最中にあたる、この日、世界は早すぎる終末を迎えた。
厳密に言えば、それ以前から予想していた人物は数多くいた。しかし、仕事や学校などがこの世のほとんどであると、捉えている彼らに、この終末を避ける術は無かった。
戦後から徐々にその存在を政府によって認知されていた、言わば新人類が台頭して来たのである。もし、彼らが人間と同様の知性を持ち、思慮深い考えのできる生命体であれば、もっと異なる結末を迎えていたに違いない。しかし、彼らの正体は所謂カビであり、知性を持ったカビであった。彼らは食物をダメにする。戦国時代で言うところの、兵糧攻めのような真似を平然と行うのである。
それまでは、非常に少数で、軍隊の力で出現するたびに、駆逐されていたため、実害は無かったが、ニュースなどで大きく取り上げられた。そして平成元年の8月1日の午後7時30分。海から大量のカビが発生し、地上へと侵攻。
今まで、人間の知恵が作り上げて来た世界を、僅か一週間足らずで荒廃させたのだ。アメリカも中国も、そて日本も。先進国が立て続けに倒れると、同様に全世界がカビの支配下に置かれることとなった。
「ふああ~」
白いYシャツに黒いズボンを履いた。黒髪の少年は、神社の石段の上で大きく欠伸をした。彼の格好は地元の公立中学校の制服である。上着の学ランは着ていない。当然だ。今は夏なのだから。
「こら、ヒロちゃん。手伝ってよ」
ピンク色の長い髪をした、少年と同じぐらいの年齢に見える少女が、同じく制服姿で、両手を腰に当てたまま、少年を見下ろしていた。
「ああ、ごめんね。すぐに手伝うから」
少年は眼を擦って立ち上がった。少年はまだ変声期を迎えておらず、肌も色白で線が細かった。これで女装したら下手な少女よりも美しいのだろう。ピンク髪の少女は、ボーイッシュな少年の後ろ姿をじっと見つめていた。
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