第1話 狂った夏

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 危険な仕事はいつも竜の担当だった。竜は時折、山を降って街に出ると、倒壊した建物の中から食料を持って来るのだ。そしてそれを、神社で分け合う。とても生産的な暮らしとは思えない。取って来た食料は、全て店の商品だ。それはいつかは底を尽きる。自給自足の生活とはあまりにかけ離れている。 「きっと、私達も・・・・」  紅音は穴の開いた屋根から、夜空を見上げた。今日は満月で、彼女らの気も知らずに、神々しい光を放っている。その景色だけは、以前の世界と何にも変わらなくて、それだけが安心できた。 「二人とも、水だよ」  先程まで、石段で一人黄昏ていたヒロが、桶に水を汲んで戻って来た。 「井戸の水って、本当に平気なの?」 「そう言いながら、もう2週間は飲んでるじゃない」  ヒロは神経質そうな外見に見合わず、以外にも、そこは大雑把だった。 「じゃあ、皆も揃ったことだし」  竜に合わせて、「頂きます」と両手を合わせる。こんな時に律儀な自分達がおかしかったのだろう。三人はしばらく笑っていた。そして、足元に置かれた、シーチキンの缶詰を食べ始めた。 「美味い。くそ、缶詰の分際で美味いぜ」  竜ほどの体格の男が、缶詰一個で満足するとは思えないが、彼は見た目以上に人を気遣う性格だから、それについては何の不平を言わなかった。 「にしても、暑いなあ。エアコンは無いのか?」  竜の冗談に二人はまたも笑った。この状況で、電気が通っているならば、きっとそこはユートピアだと、二人は思った。 「竜さん。僕らはこれからどうしたら・・・・」  ヒロは上目遣いに竜を見て言った。竜はそれが何だか可愛くて、つい、大きな手でヒロの頭を撫でた。 「ひゃん。ちょっと。竜さん?」  ヒロは真面目に話しているのに茶化されていると感じたのだろう。心外そうな顔をしていた。 「悪いな。ヒロの性感帯は頭だったな」  竜は悪戯っぽく笑った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加