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「あのさぁ、陛下」
「なんだい」
「今はよぉ、諸外国がアルギムを一斉に攻め込もうってタイミングだよな」
「そうだね」
「じゃあ、なんで俺たちはこんな山の中を歩いて移動してるんでしょうかね?」
アルギムの辺境
北西の端っこにある山林の豊富な地域“ヴィーズド”
その地域の山
その獣道としか言えないような場所を進む三人の姿があった。
「ザクセル、陛下の決定に文句でもあるのかしら」
「あるだろそりゃ。というかマーガレット、お前実質参謀だろ、諫めろよ陛下の行動を。
こんなところでピクニックしてる余裕なんてどこにもないだろ」
「陛下の判断に諫める要素がどこにあるというの」
「おーい、駄目だこいつ。
ブレーキ役がいねぇ! ゼノンも誘うんだったーマジでー!」
大いに嘆くザクセルの言葉を背に、思わず苦笑いを浮かべるのは現在このアルギムで国王を担っているカリウス・K・アルギムであった。
「ゼノンには国境全体の警護を任せているからそれは難しい」
「え? 国境の警護を? クライシアのか?」
「いや、アルギム全方位のさ」
「……は?」
「流石は何年も総騎士団長を目指していたことだけはあるよ。
僕も軍勢の配置はあまり得意じゃないんだけど、見事にキメラや骸骨兵を配置してくれている」
「陛下、ちょっとあいつにそれは負担が大き過ぎるんじゃないか?」
「いや、以前ならまだしも、今は反乱軍としてひとまとめになっている。
全体がバラバラの個ではなく群れとして動いてくれたおかげで以前より動きが予想が立てやすくなっているから大丈夫さ。三日くらいは」
「それ大丈夫って言わないと思うんだが……」
下手に仕事ができるばっかりに負担が増大している。
両腕義手となりながらも必死に頭を働かせている戦友を想い、ザクセルは遠い目をするのであった。
「だけどザクセル、一つ信じて欲しい。
今、私たちが向かっている先にこの戦いに必要な力がある」
「必要な力?
…………この辺りには何も感じないんだが」
「ああ、そうだろうね。
僕もここには何も感じない」
「ならなぜここに?」
「以前からここに送り込んだ偵察用のキメラが消息を断つんだ。
まぁ、それ自体はそれほど珍しくはない。
偵察用は割と雑に作ってるから、そういうこともある。
けど、ここは特にそれが多い。
たったの一匹も、地図上にあるはずの村に到達してないんだ」
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