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その答えに、ネイムは内心で納得した。
自分の父が早死にしたこともだが、それ以上に、自分が白夜の女神のもとでアマテラスの修行をしていた十年間、どうしてアルギムが平穏を維持できていたのかを。
父は――先王レイモンドがたった一人でどうやってアルギムを守り続けてこられたのかを。
「逆を言えば、それだけ王金のアマテラスは強力なんだろ。
だったら望むところだ」
『流出した魔獣の力を考えれば、先代までと違い、封印に回していた力をすべてあなたに与える必要があるでしょう。
その苦痛は人の身には耐えがたい。
仮に耐えられたとしても、その苦痛は一生貴方を苛み続けることとなる。
それでもですか?』
「くどいな。
逆に聞くが、ここで俺が嫌だと言ったら困るのはそっちじゃないのか。
今の状況、あなたにとっても好ましくはなく、その上で事態の解決を計るつもりでいるのなら答えは一つだ。
その上でどうして俺の心配をする?」
ネイムのその質問に王金の女神は沈黙する。
他の女神たちの態度を知っているネイムとして、王金の女神のその問いには違和感を覚えた。
女神は人に対して慈愛の感情を持っている。
だが、あくまでもそれは人、という種族に向けている者で、個人に対しては大して頓着したりなどしない。
だが、逆に王金の女神は逆だ。
その口調では、まるで人という種族よりも、今ここにいるネイム個人の方を意識しているように思える。
優先している、とまではいわないが、心配はしている。
既に現状において、そんな段階を超えているはずなのに、ネイムという個人を案じているのだ、この女神は。
『…………そう、ですね。
貴方の言う通りです。ここであなたに拒否されるようなことがあれば、私はとても困るでしょう。
唯一、私が今の世界に対して行える貢献を拒否してしまうのだから。
それはもはや、世界への裏切りに等しい』
「なら、なんで俺の心配なんかする?」
『いいえ、私はあなたの心配をしているのではありません』
まるで、罪を告白するかのような悲しい声だった。
『私は、貴方をあの人と……私のミツルギと重ねてしまっているだけなのです』
「…………ミツルギは、女神にとっての代理人、悪く言えば使い捨ての武器みたいなものだと思ってたんだが……あんたは違うのか?」
『そうやって、野暮なことを聞くところも……本当に似ていますね』
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