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白夜はまた複雑そうな顔をする。
だが、先ほどよりは少し柔和な印象を受ける。
『相変わらず、なんですね』
「――白夜、お前が俺の左手腕に仕掛けた術式はあと何人殺せば使える」
『…………無粋ね』
「これはお前が仕掛けたことだろ」
先ほどまでの柔和な空気が完全に消え去り、普段の冷徹な雰囲気に戻る。
『オロチの術式は十分に機能してるわ。
大分魂をため込んだみたいね。
かつての仲間もそれだけ簡単に切り捨てられるとは流石としか言いようがないわ』
「魔獣を殺せるには足りるか?」
『近衛騎士をあと二人、そしてあなたの弟がいれば十分よ』
「……鎌をかけるつもりだったが、もう隠す気すらなくなったわけか。
魔獣の正体は物理的な破壊は困難なほど微細な寄生生物。
なら、その知能を、奴と親和性の高い奴の記憶を叩き込んで精神崩壊させて殺す。
それがお前の術式の正体だ」
『知られたところで、どうだと?
そちらに魔獣を殺すための選り好みができる余裕などもうないでしょう。
ああでも、その力があればどちらでも同じですか』
「なんだと?」
愉し気に顔を歪ませる白夜
その態度に、ネイムは不快感を覚える。
『その右手の加護……それは使用者の身を守るもので力を抑える。
お姉様の力を完全に使うのであれば、それは四回目。
その四回目に、他のミツルギの協力が得られたなら魔獣を再度封印し、無力化することはできるでしょうね。
魔獣を殺すことこそできませんが、オロチを使わずとも、この戦争を治められる』
「それじゃお前の目的は達成できないぞ。
お前は王金の女神の復活のために、一時的とはいえモリアに――魔獣と結託したんだろ」
『ええ、その通り。
ですが、それができるの?
お姉様に言われたのでしょう、その加護を超えた使用は、身を滅ぼす』
「それは……」
言葉に詰まるネイム
そんなネイムの態度に白夜は口角を吊り上げる。
『好きな方を選びなさい、弟を手にかけて魔獣を殺すか、魔獣を封印してその身を破滅させるか。
あなたにそれが選べるのなら、やってみなさい。
ふ、ふふ、ふふ、あははははははははははははは――――っ……』
高笑いをあげたかと思えば、突然その声は途切れる。
そして意識なく倒れそうになるその体を、ネイムは素早く受け止めた。
すでにこの場に白夜の女神はなく、残っているのは意識のないミホシだけだ。
「…………」
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