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毎日が安らかで、平和な日々。
近くの村の農作業のお手伝いをして、その日食べる作物をもらう。
決して贅沢とは言えないけど、私はとても幸せだった。
季節も半年が経過して、土節、水節が過ぎて、風節となった。
これからは村の女性たちと一緒に山に入って果物などを収穫することになる。
甘いものいっぱい食べさせてあげたいな。
そうすればきっと……きっと“あの人”も……
◆
「マルタちゃーん、そろそろ休憩にしましょー」
「はーいっ」
声を掛けられて、マルタは木の上から闇属性魔法を応用して作った腕を器用に使って降りていく。
木の下に置いてある籠には、柑橘系の果実が大量に入っていた。
「いやー……相変わらずマルタちゃん凄いわねぇ。
魔法を自分の手みたいにそこまで器用に使える人、この村じゃ他にいないよ?」
「馬鹿ねェあんた。
マルタちゃん、元々は王都の騎士様だったんだからそこらの連中とじゃ腕が違うのよ、腕が」
「いえ……私なんてまだまだですよ」
一緒に収穫をしていた中年の女性とそんな会話をしつつ、用意していた水筒とお菓子をみんなで分ける。
「料理もできて、こんなにおいしいお菓子も作れて……その上誰よりも働いて……もう、うちの息子の嫁に欲しいわ。
いいえ、もう息子と交換して子供になって欲しいわ」
「ちょっと、あんた狡いわよ?」
「うちの娘も、マルタちゃんくらい働いてくれたらねェ……」
「あ、あはは……」
おばさんたちのそんな言葉に、マルタは曖昧に笑う。
「……それでマルタちゃん、本当にあんた大丈夫なの?」
「え……何がですか?」
一人の女性が、マルタの方を心配そうな眼で見て来た。
「あんたと一緒に住んでるあの男……日中いつも働きもせず山にこもってるそうじゃない?」
その発言にマルタの表情が凍りつく。それに気づいた一人の女性が止めようとする。
「ちょっと、やめなさいって」
「いいえ、マルタちゃんがこんなに働いてるのに、昼間から遊びほうけてるなんて許せないじゃ――」
「すいませんが……」
言葉の途中で、マルタは席を立った。
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