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「――今日は気分が悪いのでもう帰ります。
大丈夫でしょうか?」
「え……あ……あー……
そうね、マルタちゃんの限ってはもう今日中のノルマは終わってるし、いつも良く働いてくれてるからもういいわよ」
この場でもっとも立場が上の女性からそう言われ、マルタは頭を下げるなり自分の荷物をまとめて帰路へとついた。
「マ、マルタちゃん、ちょっと?」
先ほどマルタのことを心配していた様子の女性が声を掛けるが、マルタは一切振り返らない。
「あんた、余計なこと言うから……」
「だ、だって……」
「マルタちゃん基本いい子だけど、あの男の事となると態度変わるんだから余計なこと言うんじゃないの。
あの子、仕事は真面目で、おかげで私たちも楽できるようになったんだからもうその話はするんじゃないよ」
「……わかったわよ」
◆
果樹園を去って、村の方へと一度降りていく。
村で唯一のお店には、この村の農家が毎朝収穫した野菜が並んでいて、それを買って帰ろうとしているのだ。
「おうマルタちゃん、今日もかわいいね」
「こんにちは。トウモロコシ、ありますか?」
「あいよ。マルタちゃん可愛いし、今日もオマケしちゃうよぉ」
「ありがとうございます」
にっこりとほほ笑み、用意されたトウモロコシ。それらをマルタは闇属性の魔法によって即興で作り上げたカバンへと入れる。
そしてそのほかに必要な物を買って、代金を払う。
「まいどー」
お店から出て、自宅へと戻ろうとする。
「――あ、あの!」
「はい?」
後方で声を掛けられて振り返ると、背中に弓を背負い、動物の毛側で作ったベストを着た男が声を掛けて来た。
歳はマルタよりも少し上と言った感じだろう。
「あ、テューダルさん。どうしました?」
「あ、いや……その、今日も大量で! 鹿が獲れたんだ! こんなでっかいの!」
両手を一杯に広げて獲物の大きさを表現するテューダル。その顔は今にも火が噴き出してしまいそうなほど真っ赤になっている。
「そうなんですか、よかったですね」
「あ、ああ! それで、その……よかったら今日ウチに来ないか!!」
「……え?」
突然の言葉にキョトンとした表情になるマルタ。
その様子にテューダルの顔は更に赤く熱くなった。
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