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アルギム王国首都「セレ・アルギム」
そしてその城の地下宝物庫。
ここにはとある物体が保管されていた。
それは厳重に、誰にも盗まれることのないように、そして二度と失わない様にと、大切に、大切に守られていたのだ。
たった一人の現在の所有者を除いて、その物体を取り出すことができる者は存在しないはずだった。
「…………ない」
そしてその男は、その宝物庫で入ってすぐに見れるように展示して置いたそれが無くなっていることに気が付いた。
この男は、毎日のように“それ”を見に来ていた。
それが、今の自分にとっての唯一の拠り所であったからだ。
だが、それが消えた。
盗まれた?
いや、あり得ない。
盗まれることなど有り得ない。
だとしたら自分にもわかると、男はその可能性を否定した。
「まさか……」
だから、ある可能性を男は考えた。
――あれが――自分が殺したと思っていた兄の形見が――その白銀の金属と化した“左腕”が無くなっているということは、それは……“呼び出した”からではないだろうか、と。
「…………ふ、ふふっ」
何時振りだろうか、自然と顔がほころんでいく。
「そうか……生きていたんだね」
笑いながら、泣いた。
そして、男は――カリウスは怨む。
「遅い……遅すぎるよ……一体、何をしていたんだよ?」
笑って、泣いて……そして激しい怒りをカリウスは自分の兄――ネイムに向けた。
「いつでも、君は…………“貴様”は僕を待たせて、肝心な時に何もできないんだな」
その全身に、どこか鈍い黄金色の光を纏うカリウス。
「……もう、何もかも手遅れだ。
誰にも止められない。
だから……僕は一秒でも早くこの辛いことを終わらせてやる」
白銀の左腕が保管されていたケースへと近づくカリウス。
そうして行くたびに、常人なら即死してもおかしくないほどの強力な魔法が何十、何百と連続で発動してカリウスに襲い掛かる。
だが、それらはすべて黄金色の光によって打ち消される。
「全部、全部貴様のせいだ…………だから今度こそ……自分の意思で、お前を殺すぞ…………ネイムッ」
空のケースは触れただけで塵となって消えた。
カリウスのその眼は、爛々と、以前より遥かに強く赤い光を灯していた。
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