平穏 & 役立たず

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新聞の内容に目を通す。 ――アルギム国、周辺国を吸収。 ――敵国トールキン、クライシアとの戦闘結果。 ――近衛騎士の活躍。 ――国王カリウスの動向。 そんな内容を見て、マルタは表情をしかめる。 「……カリウス・K・アルギム……」 この男が今だに健在であるという事実は、それだけでマルタの胸中を掻き乱す。 その理由は―― ――ギィイ 「っ」 扉が開いた音がして、マルタはすぐに広げていた新聞を畳んで近くの棚に隠した。 そして用意して置いた食事をすぐに皿に盛りつけて今までずっと家事をしていたかのように装う。 「…………ただいま」 小さな声。 そしてその声には意思が込められていない。 その声の主は、普通の人とは違う格好をしていた。 まず目に付くのは、その左腕がないということだ。 左袖だけが肘辺りから結ばれている。 右手に杖があるのを見る限り、足にも障害があるのかもしれない。 「おかえりなさい、ネイムくん」 そんな男を、マルタは村では見せたことが無い本当の笑顔で出迎えた。 コツコツと、右手で持った杖を突きながら、ネイムは自分がいつも座っている椅子につく。 「今日もお散歩?」 「…………ああ」 「そっか、でもこの時期は山の獣が活発になるから気を付けないと駄目だよ」 「…………ああ」 ネイムはマルタの話を聞いているようには思えず、ただ音に反応して相槌を打っているようだった。 ネイムは虚ろな目で、右腕の指だけで器用にパンをちぎり、それをコーンスープの盛られた皿につけて口に運ぶ。 感想など口にはせず、淡々と機械的に食事をとっている。 「……今日も……アマテラスの訓練してたの?」 「……」 マルタのその言葉で、ネイムの動きは止まる。 「……もう、止めようよ。 ネイムくん……もういっぱい頑張ったんだから……もう無理しなくてもいいんだよ」 「…………」 「アマテラス、もう使えないんでしょ? それならそれで、別の生き方を探さないと」「黙れッ!!」 今まで特に反応の無かったネイムが、この時ばかりは怒りを声に乗せて、そしてその右手をテーブルに叩きつけた。
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