平穏 & 役立たず

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その衝撃で机の上に置いてあった皿がひっくり返ってコーンスープが床にぶちまけられた。 「あ……」 それを見てネイムは我にかえる。 「……すまん。 すぐに片付ける」 「あ、いいよ私が」「俺がやる」 マルタからの手を借りようとはせずにネイムは下に向かって手を伸ばそうとするが右腕だけでは皿を拾うことも満足にできない。 「……っ」 ただひっくり返った皿を拾う。 今のネイムはたったそれだけのことすらできないのだ。 「ネイムくん、大丈夫だよ。 私がやるから」 マルタがネイムの代わりに皿を拾う。 そして同時に魔法を使って近くに置いてあった布巾で床にこぼれたスープを拭いた。 「大丈夫? 服とかにかかってない?」 「っ…………ガキじゃないんだからいちいち手を出さなくていい!」 声を荒げながらネイムは席から立ち上がる。 そして杖をつきながら玄関へと向かっていく。 「どこにいくの?」 「どこでもいいだろッ」 苛立ったようにそう吐き捨ててネイムは出ていってしまった。 「…………ネイムくん」 ◆ ネイム・レスは生き残った。 致命的を負い、一月以上意識が戻らなかったが目覚めたのだ。 だが何もかもが元通りとはいかない。 カリウスとの戦闘で左腕とカタナ、そして白銀の宝剣を失った。 それどころか身体が以前のように動かせなくなっていた。 杖無しには真っ直ぐに歩くことも儘ならないし、右腕には常に痺れが付きまとう。 そういった状況が今のネイムを追い詰めていた。 「何やってんだよ、俺は……!」 小屋から離れた場所にある森の中。 そこでネイムは自己嫌悪に陥っていた。 マルタは何も悪くない。 悪いのは自分だ。 「…………ホント、何やってんだよ、俺」 近くの木の幹に背を預けてネイムは空を見上げる。 そしておもむろに自分のはいているズボンの裾をめくった。 そこにあったのは普通の人の足ではない。 銀色の光沢のあるアザが血管のような模様を浮き上がらせていた。 「馬鹿じゃねぇの……こんなになって、結局何にもできてねぇ。 ……死ねば良かったんだ、俺は」
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