第1話・餓鬼編その2

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 紅音は慌てて外に飛び出した。手には剥がれた壁の一部である板を持っている。これが武器になるかは不明だが、何も無いよりはマシに思えた。 「にゃん」 「へ?」  紅音は手に持っていた板を手放してしまった。そこにいたのは、悍ましいカビでも猛獣でも無い。白いフワフワとした、それらとは異質の生き物。赤い首輪に小さな鈴を付けた、紛れもない子猫だった。 「嘘、可愛い」  荒廃した風景には不釣り合いな猫の姿に、紅音は感極まっていた。野良猫では無く、飼われていた猫のようだが、果たして、飼い主は無事なのだろうか。それにしても、よく今日まで生き延びて来られたものだ。紅音は様々なことを一人で考えていた。  猫を抱え上げて、神社の中に戻ろうとする彼女の肩を、何者かがそっと触れた。 「へ?」  紅音は全身に鳥肌を感じつつ、背後を振り返ると、そこにはヒロが立っていた。手には懐中電灯を握っている。 「ちょっと、ヒロちゃん。電池勿体ないよ」 「あ、うん。すぐ切る。それよりも佐伯さんこそどうしたの?」 「え、あはは。ちょっと夜風に当たりたくなってね。それよりも、見てよこれ」  紅音は早速白猫を、ヒロに見せてやった。すると、ヒロの瞳が突然キラキラと輝き出し、少し屈みながら、猫の方に視線を移した。 「えへ、可愛い。猫ちゃん」  ヒロは猫が好きらしく、口を鳴らしながら、猫を自分の方に呼んだ。猫は飛び上がると、そのままヒロの胸に飛び込んで行った。その際、紅音は右腕を少し引っ掻かれてしまった。 「痛・・・・」  紅音は引っ掻かれた腕を押さえながら、ヒロの腕に抱かれている猫を睨み付けた。 (こいつ、絶対にメス猫ね。ヒロ君に抱き付くなんて、尻軽女みたい)  紅音は猫に嫉妬していた。  しばらくして、今度は竜が外に現れた。そして早速猫を発見するなり、小躍りした。 「うおおお。猫かよ。これで久しぶりに動物性たんぱくが摂れる」  竜の発言に、紅音とヒロは引いていた。どこまでが冗談なのか分からない。  猫を神社の中に入れて、再び横になろうとした三人の耳に、またもガサガサという音が聞こえて来た。 「ねえ、まさか。今度こそ・・・・」  紅音が言うよりも早く、竜は外に飛び出して行った。 「二人とも、中にいろ」  男らしく竜が叫ぶ。
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