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竜はヒロの頭を撫でた後、急に真剣そうな顔付きになった。思わず、紅音もヒロも姿勢を正した。普段冗談ばかりの竜が、真面目な表情になると、流石に緊張するのだろう。
「ここから出たいとは思っている。しかしだ。ここから出て何処に行く?」
「それは・・・・」
ヒロは口をつぐんだ。自分から言い出したのだから、それなりに根拠のある言葉を返したかったが、建物のほとんどが倒壊し、地形も変わってしまったこの場所で、一体何処に向かって歩けば良いのか、彼に分かるはずも無い。
「はっきり言って。ここは神奈川の中でも一番の田舎だ。最寄りの駅だって無い。目印となる物も何もだ。だから、俺は下手に動くよりも、ここで助けを待った方が良いと思うんだ。きっと、地平線の向こうから、自衛隊のヘリがやって来て、俺らを発見する。俺達は梯子に捕まる心配だけしてれば良い。映画みたいに格好良くな」
ヒロは静かに唸った。確かに竜の言葉が一番正しいように聞こえる。無駄に消耗するよりも、ここで待っていた方が生存率は高いかも知れない。人類が自分達を残して全滅したなんて、あまりに現実味が無い妄想だ。ヒロは自分の幼稚さに顔を赤らめた。
「ほら、ハグだ」
竜はヒロを抱きしめると、またも頭をポンポンと手で軽く叩いたり、撫でたりした。
「ねえ、僕ら臭くない?」
ヒロは竜のタンクトップから漂う腐敗臭に顔を歪めた。
「当たり前だろ。風呂入ってないんだから」
馬鹿なこと言うなとばかりに、竜は笑った。確かにここに風呂は無い。しかし、こうはっきりと言われると、それはそれで困るものだ。
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