親友

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緑里がそう言うと、橙花がスマートフォンを綾に見せつける。 そのスマートフォンからはムービーが再生されており、よく見ると私と綾が映っている。そして、叫び声、バケツの水、バケツ、全てがしっかりと撮影されていた。 「これ、今から校長に見せてくるから。退学になるんじゃね?」 緑里が綾を馬鹿にするような顔で見下ろす。 「て、テメエ、それ早く消せ!!さもなくば、そのスマホぶっ壊すぞ!!」 「べ、別に消してもいいですけどっ!!もう緑里くんのスマホ、小紅ちゃんのスマホ、うちのパソコンとかにいっぱい送信済みなので、無駄だと思います!!」 橙花が、今までに出したこともないような大声で叫んだ。足が震えている。でも、私のために頑張ってくれてるんだと思うと、涙が出てきそうだ。 「くっそ・・・っ調子乗ってんじゃねえぞ・・・!!」 綾が地面のコンクリートをガンガンと殴りつける。が、そんな力ではコンクリートには傷一つつくことはなく、ただ綾の手に傷が増えていくだけだった。 「小紅、早く行くぞ!!」 「う、うん!!」 綾を置いて走り出す。綾とすれ違うとき、ふと綾の顔を見る。そこには、怒りと恨みと恐怖で染められた瞳で、私を睨む姿があった。そこには、去年まで仲良くしていた友達の姿はどこにもなかった。 この人は、私が一年間友達だと信じた人。大切だったはずな人。でも、私の中ではもう、この人に同情する気持ちはこれっぽっちもない。 人間なんて、些細なことでパッと気持ちを変えてしまう生き物だ。私は、こんなことがなければ、クラス替えでまた綾と同じクラスだったら、まだ友達もどきの関係を続けていたのかもしれない。 人間の築き上げる関係なんて、あまりにも脆い。だけど、私と綾の関係は、踏み潰して正解だったと思う。そもそも、脆い人間関係というのは、自分がそういう関係しか築けていなかっただけで、実際緑里や橙花のような人達との関係というのは、脆く崩れてしまうわけはないと思う。もし、仲間割れするようなことがあっても、すぐにやり直せると思う。 やっぱり、どれだけ仲良くなろうと努力するのは問題ではなくて、一番大切なのは、誰と仲良くなるかを考えることだと思う。 綾は最低は人だったけど、私にこのことを教えてくれた。感謝したい。 そして私は、新しく出来たこの二人のことを、もっと大切にしていきたいと思った。
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